バレット食道
バレット食道
バレット食道とは、何らかの原因で、食道の粘膜が、胃の粘膜に似た特殊な粘膜に置き換わってしまった状態を指します。本来あるべきでない場所に、違う種類の粘膜が発生している状態、とイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
バレット食道が問題とされる最大の理由は、「食道腺がん」という種類の食道がんが発生するリスクが、正常な食道に比べて高くなるからです。粘膜が変化した部分は、長期間にわたって胃酸などの刺激を受け続けると、がん化することがあるのです。
ただし、ここで重要なことは、バレット食道と診断された方全員が、がんになるわけではないということです。実際にがんを発症する方の割合は、欧米に比べて日本では低いと報告されており、年間で0.5%未満とも言われています。過度に心配する必要はありませんが、がんの前段階とも言える状態であるため、リスクを正しく認識し、定期的な検査で変化を見守っていくことが非常に重要になります。
バレット食道は、その長さによって、3cm未満の「ショートバレット食道(SSBE)」と、3cm以上の「ロングバレット食道(LSBE)」に分類されます。一般的に、範囲が長いロングバレット食道の方が、がん化のリスクはやや高いとされています。
バレット食道ができる最も大きな原因は、胃食道逆流症(GERD)です。胃食道逆流症とは、胃の中で食物の消化のために分泌された胃酸や、時には十二指腸液が、食道へ逆流してしまう病気です。本来、胃酸への抵抗力がない食道の粘膜は、逆流した胃酸によって繰り返し刺激され、慢性的な炎症を起こします。これが逆流性食道炎といわれる状態です。この炎症が長期間続くと、傷ついた食道粘膜が修復される過程で、酸に強い胃の粘膜に似た上皮へと置き換わってしまいます。これが、バレット食道が発生するメカニズムです。
バレット食道そのものには、特有の症状はほとんどありません。多くの場合、健康診断や人間ドックの内視鏡検査で偶然発見されます。
もし、何らかの症状を感じている場合、それはバレット食道の原因となっている胃食道逆流症の症状であることが大半です。代表的な症状には、以下のようなものがあります。
これらの症状がある方はもちろん、症状が全くない方でも、バレット食道と診断された場合は、定期的な検査を受けることが大切です。
バレット食道の診断と経過観察のために、最も重要な検査が上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。口からあるいは鼻から内視鏡を挿入し、食道と胃の境目を観察することで診断が可能です。食道がんが疑われる場合には必要に応じて生検(組織を採取し、顕微鏡で観察する検査)を行います。
バレット食道と診断された後の検査の頻度は、バレット食道の長さや、異形成の有無などによって異なりますが、一般的に1年に1回は内視鏡検査を行うことが推奨されます。定期的な内視鏡検査は、がんの早期発見のために何よりも重要です。
一度変化してしまったバレット食道の粘膜を、元の正常な食道粘膜に完全に戻すための確立された治療法はありません。そのため、治療の中心は、これ以上悪化させないための管理と、がんを早期発見するための経過観察となります。
治療の基本であり、最も重要な部分です。薬物療法と並行して、日々の生活を見直すことが症状の改善につながります。
生活習慣の改善で効果が不十分な場合や、症状が強い場合には、薬による治療を行います。中心となるのは、胃酸の分泌を強力に抑える薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー:P-CABなど)です。
これらの薬を服用することで、逆流する胃酸の量が減り、食道への刺激が軽減されます。これにより、胸やけなどの不快な症状が改善し、食道の炎症が抑えられ、がん化のリスクを低減させる効果が期待できます。
バレット食道と診断されると聞きなれない病名に戸惑われるかもしれません。生活習慣や内服治療での管理を行うことで大半の方が問題なく日常生活を過ごすことができます。最も避けたいのは食道がんが発生し、手遅れになってしまうことであり、定期的に内視鏡検査を忘れずに受けるようにしましょう。当院では鼻からの内視鏡や鎮静剤(眠り薬)を使用する方法でできる限り負担が少なくなるように心掛けております。
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