
ピロリ菌
ピロリ菌
ピロリ菌の正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」であり、べん毛を回転させて活発に動き回る、らせん形をした細菌です。この菌が私たちの胃内に定着し、様々な悪影響を及ぼします。
胃の中は、食べ物を消化するために胃酸という非常に強い酸で満たされています。通常、ほとんどの細菌はこの胃酸によって死滅してしまいます。しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という特殊な酵素を使ってアンモニアを産生し、自身の周りの胃酸を中和することでこの過酷な環境で生き抜くことができるのです。
胃の粘膜にすみ着いたピロリ菌は、持続的な炎症を引き起こします。これが「慢性胃炎」といわれる病気です。感染が長く続くと、胃の粘膜がだんだん薄く痩せてしまう「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」へと進行します。この萎縮性胃炎こそが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、そして胃がんが発生しやすい土壌となってしまうのです。
実際に、ピロリ菌感染者は、感染していない人に比べて胃がんになるリスクが5倍以上も高まると報告されています。日本は先進国の中でも特にピロリ菌感染者が多く、ピロリ菌を除菌することで、こうした病気のリスクをあらかじめ防ぐことができます。
ピロリ菌の感染経路は、「経口感染(口から入ることによる感染)」が主であると考えられています。そして、感染が成立するのは、胃酸の分泌が少なく、免疫機能が未熟な幼少期(主に5歳くらいまで)が大半です。大人になってから新たに感染することは極めて稀です。
具体的な感染ルートとしては、
などが考えられています。
昔の日本では衛生環境が十分でなかったため、高齢の方ほど感染率が高い傾向にあります。一方で、衛生環境が劇的に改善された現代では、若い世代の感染率は年々低下しています。60歳代では半数以上の人が感染しているのに対して20歳代の感染者は10%未満とされています。しかし、ご両親や祖父母がピロリ菌に感染していた場合、幼少期に家庭内で感染している可能性も否定できません。
多くの方は物心がつく前に感染しており、いつ感染したか自覚していることはありません。今、胃の不調がなくても、知らない間に胃の中でピロリ菌が活動している可能性があるのです。
ピロリ菌に感染していた場合、自覚症状がない人が圧倒的に多いのです。症状がないまま徐々に慢性胃炎が進行し、気づいた時には胃がんができていた、というケースが少なくありません。
症状を引き起こす場合もあり、以下のようなものがあればピロリ菌に感染している可能性があります。
さらに病気が進行し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症すると、みぞおちの痛みや吐血・下血といった、よりはっきりとした症状が現れることがあります。
しかし、これらの症状は他の病気でも見られるため、ご自身の胃の状態を正確に知るためには、専門の検査を受けることが必要不可欠です。
ピロリ菌の検査には、大きく分けて「内視鏡(胃カメラ)を使う検査」と「内視鏡を使わない検査」があります。
胃カメラで胃の中を直接観察する際に、胃の粘膜組織を少量採取して調べる方法です。
胃炎の程度や、潰瘍・ポリープ・がんなどの病変がないかを同時に確認できることが最大の利点です。
体への負担が少なく、手軽に行えるのが特徴です。
このようにピロリ菌の検査には多くの種類がありますが、保険診療で検査を行う場合にはまず内視鏡で胃炎の有無を確認する必要があります。また、胃潰瘍や胃がんを合併している例があるためまずは内視鏡検査を受けて頂くことをお勧めします。
ピロリ菌の検査で陽性と判明した場合、「除菌療法」という治療を行います。
治療後の注意点として常にお伝えしている点が「胃がんのリスクがゼロになるわけではない」ということです。ピロリ菌による胃炎はすぐには治らないため、除菌後も胃がんが発生する可能性は残ります。従って、ピロリ菌を除菌してからも定期的に胃カメラを受けて頂くことで胃がんの発生を予防できるのです。
胃がんの発生率に関しては胃炎の程度によって異なります。早期にピロリ菌の治療ができた場合には胃がんの発生率が比較的低く、反対に長期間にわたって慢性胃炎を放置していた場合にはピロリ菌除菌後も胃がんが発生しやすいため安心はできません。当院では個々の患者さんの状態に応じて適切な胃カメラの頻度をお伝えしております。
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