
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは、大腸カメラなどの検査をしても、がんや炎症といった異常所見が見つからないにもかかわらず、腹痛やお腹の不快感を伴う便通異常(下痢や便秘など)が起こる病気です。
過敏性腸症候群の方の腸は腸の動き(蠕動)の調節に支障を来したり、刺激に対して非常に敏感(知覚過敏)になっていたりします。そのため、健康な人なら何ともないようなわずかな刺激でも、腹痛や便通の異常として感じやすくなってしまうのです。
検査で異常がなくても病気ではないとは限りません。過敏性腸症候群とは腸の機能に問題が起きている状態であり、適切な対処や治療が必要な病気です。
過敏性腸症候群のはっきりとした原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、一つの原因ではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
私たちの脳と腸は、自律神経などを介して密接に連携しており、これを「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と呼びます。不安やプレッシャーといった精神的なストレスを感じると、脳がその信号を腸に伝え、腸の運動に異常を引き起こします。逆に、腸の不調が脳に伝わり、さらに不安を増大させるという悪循環に陥ることも少なくありません。「大事な場面でお腹が痛くなる」という場合にはこの脳腸相関が関係しています。
私たちの腸内には、多種多様な細菌がバランスを保ちながら生息しています。この細菌の集まりを「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と呼びます。食生活の乱れやストレス、抗生物質の使用などによってこのバランスが崩れると、腸の機能に影響を与え、過敏性腸症候群の症状を引き起こす一因になると考えられています。
ウイルスや細菌による感染性胃腸炎(食中毒など)にかかった後、腸の粘膜が過敏な状態になり、それがきっかけで過敏性腸症候群を発症することがあります。これを「感染後IBS」と呼びます。
不規則な食事時間、睡眠不足、運動不足といった生活習慣の乱れは、自律神経のバランスを崩し、腸の機能を不安定にさせる要因となります。腸内環境を良化するためには毎日3食を規則正しく摂り、飲酒や刺激物の摂りすぎは控えることが必要です。
主な症状は、腹痛や腹部の不快感、そしてそれに伴う便通の異常です。これらの症状の現れ方によって、いくつかのタイプに分けられます。
突然やってくる強い便意(腹部切迫感)と、泥状便や水様便が特徴です。1日に何度もトイレに駆け込むため、外出や乗り物に乗ることに強い不安を感じる方が多くいます。男性に比較的多いタイプです。
便が硬く、ウサギの糞のようにコロコロになるのが特徴です。強くいきまないと便が出なかったり、排便後も便が残っている感じ(残便感)があったりします。女性に比較的多いタイプです。
下痢と便秘を数日おきに繰り返します。便の状態が不安定で、お腹の調子が予測できないため、悩んでいる方が多いタイプです。
上記のいずれにもはっきりと当てはまらないタイプです。これらの便通異常に加えて、お腹がゴロゴロ鳴る(腹鳴)、おならが頻繁に出る、お腹が張って苦しい(腹部膨満感)といった症状を伴うことも少なくありません。また、頭痛、めまい、吐き気、気分の落ち込みなど、お腹以外の症状が現れることもあります。
過敏性腸症候群は症状が似ている他の病気の可能性を除外していくことで診断を行います。なぜなら、腹痛や便通異常は、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)といった、より緊急性の高い治療が必要な病気のサインである可能性もあるからです。
安心して治療を進めるために、以下のような検査が行われます。
最も重要な検査です。どのような症状が、いつから、どんな時に起こりやすいか、食事や生活習慣、ストレスの状況などを詳しく聞き取りを行います。
血液検査で貧血や炎症の有無などを調べ、他の病気が隠れていないかを確認します。特に大腸がんでは貧血が、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患では炎症反応の上昇がみられることがあります。
下痢が持続している方には大腸カメラでのスクリーニングをお勧めします。特に40歳以上の方や、急な体重減少、血便などの「警告症状」がある場合には大腸がんの除外が必要です。肛門から内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を直接観察して、ポリープやがん、炎症がないことを確認します。この検査で異常がないことが確認できれば、過敏性腸症候群の可能性がより高くなります。
過敏性腸症候群の治療目標は、病気を根治させることよりも、つらい症状をコントロールし、症状とうまく付き合いながら、日常生活を過ごすことです。まずは生命に関わる病気ではないことをご理解いただき、不安を取り除くことが肝心です。その上で「生活習慣の改善」「食事療法」「薬物療法」の3本柱を組み合わせて治療を行います。
まずは、1日3食を規則正しく、バランスよく食べることが基本です。その上で、以下の点を試してみましょう。
生活習慣や食事を見直しても症状が改善しない場合は、内服薬による治療を行います。患者さん一人ひとりの症状のタイプや強さに合わせて、薬の内容を調整します。
過敏性腸症候群でお困りの方は痛みに対して過敏になっている傾向があるため検査を受ける際にも不安を感じられる方が多いです。当院は大津市で鎮静剤を用いて胃カメラ・大腸カメラが可能な数少ない医療機関です。便の悩みは他人に相談しづらい症状の一つですが、早めに診断・治療を行うことで日常生活を快適に過ごせるようになります。まずはお気軽にご相談ください。
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