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MASLDとは
「脂肪肝」と聞くと「お酒の飲みすぎが原因」と思われがちですが、実はほとんどお酒を飲まない人でも脂肪肝になることがあります。これが「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と呼ばれる病気です。
MASLDは食生活などの影響で肝臓に脂肪がたまる病気で、日本人の約3〜4人に1人が該当すると言われています。特に糖尿病、高血圧、脂質異常症などを併発している、いわゆる「肥満」の方に多くみられますが、やせ型の方でも脂肪肝を発症することがあります。
なぜ肝臓に脂肪がたまるのか?
人体は余分なエネルギーを脂肪として肝臓に蓄える仕組みを持っています。食べすぎや運動不足が続くと、余った糖や脂質が中性脂肪に変化し、肝臓に蓄積されます。これが脂肪肝の正体です。
MASLDの中には、脂肪の蓄積にとどまらず肝臓に炎症や細胞障害を引き起こす「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」へ進行するケースもあります。MASHは放置すると肝硬変や肝がんへと進展する可能性があるため、早期発見と対策が重要です。
自覚症状がないからこそ要注意
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、ある程度のダメージでは症状が出ません。そのためMASLDやMASHも初期には自覚症状がほとんどなく、健康診断で「肝機能異常」や「脂肪肝」と指摘された場合は、早めの受診と医師への相談が大切です。
MASLDを早期に発見するために
MASLDは、健康診断で偶然に肝機能の異常を指摘されて発見されることが多いです。肝臓の検査項目の中では、ASTやALTといった数値が上昇するのが特徴です。特にALTが30を超える場合は、肝臓に炎症がある可能性が高いため、一度医療機関を受診することが推奨されます。
脂肪肝の早期発見には、腹部超音波検査(腹部エコー)やCT検査などの画像検査が有効です。確定診断には肝生検(肝臓に針を刺して組織を採取する検査)が必要ですが、合併症のリスクがあるため、検査後に入院が必要となります。
実際の臨床現場では、まず画像検査を行い、ウイルス性肝炎やアルコール性肝障害といった他の疾患を除外したうえで診断するのが一般的です。
当院では、キャノン社の最新超音波診断装置を導入し、ATI(超音波減衰法)と呼ばれる特殊な技術を用いて脂肪肝の程度を数値化し、早期発見や進行の評価に役立てています。
予防と改善のためにできること
MASLDの予防と改善には、生活習慣の見直しが欠かせません。以下に主な対策を示します。
食生活の改善
糖質や脂質の摂りすぎを控え、野菜や魚を中心としたバランスの取れた食事を心がけましょう。甘い飲み物やスナック菓子は控えることが重要です。1日の摂取カロリーは、体重1kgあたり25〜30kcalが目安とされています。食事の注意点が分からない方は、管理栄養士による栄養指導を受けるのも効果的です。
適度な運動
週3回以上、1回30分程度のウォーキングなどの有酸素運動が推奨されます。定期的な運動は代謝を上げ、脂肪の燃焼を促進します。さらに無酸素運動(筋トレ)を併用することで、より効果的な脂肪減少が期待できます。
体重管理
肝臓に蓄積された脂肪を減らすには、体重の約7%を減量する必要があると言われています。ただし、急激な減量はリバウンドや体への負担を招く可能性があるため、無理のないペースで継続的に取り組むことが大切です。
定期的な検査
血液検査や腹部エコーで肝臓の状態を定期的にチェックしましょう。肝硬変や肝がんに進行しても初期は無症状であることが多いため、年1〜2回は医療機関での検査が望まれます。肝硬変に進行すると食道静脈瘤や腹水、黄疸など様々な合併症が起こり得ます。ここまで進行すると健康な状態には戻らないため早期の段階で治療を開始することが何よりも重要です。
MASLDと診断されたら
MASLDは、他の生活習慣病を併発しやすい病気です。脂質異常症や糖尿病の治療薬の中には、脂肪肝に対する改善効果が報告されているものがあり、生活習慣の見直しだけでは改善が難しい場合に使用されることがあります。
前述のように、MASLDが肝硬変や肝がんに進展するのを防ぐことは重要ですが、実は死因として最も多いのは心血管疾患であることがわかっています。動脈硬化の進行により、心筋梗塞を発症する例が少なくありません。特に喫煙習慣がある方は、喫煙しない方と比べて心筋梗塞のリスクが約3倍に高まるとされています。
また、MASLDと診断された人は、大腸がんや乳がんのリスクも高くなるとされており、さまざまな疾患との関連性が明らかになってきています。
まとめ
「お酒を飲まないから脂肪肝とは無縁」と思っている方こそ、MASLDのリスクを見逃しやすいものです。現代の食生活や運動不足を背景とした、非常に身近な病気であることを認識しましょう。肝臓を守る第一歩は、日々の生活習慣を見直すことにあります。
健康診断の結果で少しでも異常があった場合は、それをきっかけに医療機関を受診し、ご自身の生活習慣を振り返る機会としてください。